傍に居るなら、どうか返事を ※R18です。 部屋を入った途端に、凄まじい香りがした。 響也は不快感に眉間に皺を寄せ、鼻を掌で覆う。そうして、薄らいでからやっと、異臭が普段兄が愛用している香水の匂いだと気が付いた。 兄はいないと言っていた。それにも係わらず明かりがついていたから、あの男がいるのだろうと思ってはしていたが、こんな状態は予想外だ。 成歩堂が何かやらかしたのかと、ブーツを脱ぎ捨てて慌てて家に入り込む。中にいるだろう人間を想定し一言二言、言葉を発したが、誰からも何の返事も無い。 強烈な臭いに頭痛すら感じながら、応接室に視線を向ければ、見知った背中がソファーの背から突き出していた。 やっぱり、アンタか…。 抱えていた憤りの分だけ苛立ちが増す。返事ぐらいしたらどうだと、脚音も荒く近付いた。周囲に散らばる雑誌と食糧に、苛々は募る。 『汚い』と罵声を浴びせようと開いた口は、そのまま固まった。 ソファーに座り込んだ男は、一心不乱に自慰に励んでいた。 「ちょっ…。」 発した声は、掌が鼻を塞いでいたせいか音にはならなかった。 ニット帽を取り去っていたので、普段は余り見えない貌がはっきりと見てとれた。 形の良い眉を微かに歪め、瞼を落とし、薄く唇を開いた男に表情に、心臓が高く跳ね上がる。カッと身体が熱くなった。 自慰行為自体、異性のものであっても生で見た事はなかった。同性ならなおさらだ。他人のモノなんか見たくもないよと思っていたはずだった。 なのに、成歩堂から目を反らす事が出来ない。 静かな夜。成歩堂の唇から漏れる、短い呼吸の音が、皮膚を擦り上げる音、衣擦れの音、全てが響也の耳をおかしくしていく。 ゾクリと鳩尾の当たりに感じた事で、響也はハッと我に還る。 認めたくは無かった。けれど、確かに自分は成歩堂の痴態に欲情を感じ始めている。そんな事実を振り切るように、響也は声を張った。 「…あんた、何やってんの?」 緩慢な様子で振り返った男は、とろりと響也に目をやった。 深い色の瞳に、情欲をのせた潤みは響也を映す。莫迦みたいに惚けた貌をしていたことに気付き、響也は目を逸らした。 途中で止めるかと思った行為を止めるでもなく続ける男に、普段の様子を見つける事が出来ない。周囲には見当たらないけれど、この男は酔ってでもいるのだろうか? 兄の香りに酔っているなら、洒落にすらならないのだけれど。 声を掛け近付けば、荒い息遣いと熱さすら感じる体温にゾクリとした。片手に包まれ立ち上がったものは、淫猥に濡れたまま刺激を許容している。肉の先端を指でグリと押さえ込めば、快楽にか成歩堂の身体が跳ねる。 成歩堂が快楽を堪える表情で何かこちらへ話し掛けていたのだが、響也の耳を素通りした。だから成歩堂の手が自分の側頭部を捕らえて、唇が重なる事にも何の抵抗も出来なかった。 驚く舌に強引に成歩堂のそれが絡まる。苦しげに息を継ぐのもかまわず、接吻とも咀嚼ともつかない行為が続いた。 唾液の糸を引きつつ互いの口唇が離れれば、解放された響也の唇からも、成歩堂からも乱れた熱い吐息が漏れ出る。 「…キ…ト」 涎に濡れる成歩堂の唇が告げる。兄の名だと気付いた途端、さっき声を掛けた時にも同じ名を口にしようとしていたと思い出した途端、身を翻そうといた響也の行動は成歩堂に阻まれる。 逃がさないと言わんばかりに抱き締められ、暴れるよりも早く目頭が熱くなってくる。 この男は兄と自分を間違えているのだ。兄の香りに包まれて自慰行為をするほどに兄に溺れているのだと、そう思った途端胸が詰まった。 こうして自分を抱き締めて、自分を見つめて、成歩堂は兄を見ている。自分を見て欲しい、そう行き着いた結論に、響也は絶句した。 自分はこの男が好きなのだと。 兄への想いをこれだけ見せ付けられながら、成歩堂への恋心を確信させられるなんて。 「離して…成歩堂さ…ゃ。」 「んっ…。」 響也の言葉など聞く様子もなく、成歩堂が首筋をぺろりと舐めてくる。シャツの下から潜り込んでくる手はぬるりとして気持ちが悪い。精液が手に付着しているのだと気付くと泣きたい気持ちが増長する。唇を噛み締め目尻に涙を留める。 そうして全てを拒絶しようとしても、与えられる甘やかな刺激に身体はびくびくと震える。 ただでさえ、成歩堂の痴態に性的衝動を感じていたせいもあり、先走る身体に翻弄された意識は、快感を拒む事は出来なかった。 痛い位に張り詰め出した下肢に気付いたのか、成歩堂の右手が下着ごとズボンを引き下ろされ 、直接に加えられる新たな刺激に絶えきれず、響也の身体はびくりとはねた。 「やっ…!」 頬を伝う涙を舌でぬぐい取り、成歩堂はトロリと笑みを浮かべる。 「…んな貌で泣くんだ、ね。」 そうして、再び貪るように響也に口付ける。手の中に握り込んだものを、強く、弱く、刺激しながら、やがて空いた方の手が滑らかな内股へとのび、ぐいと脚を開かせられた。 声を上げようにも、未だ口唇は重ねられたまま、絡まる舌が濡れた音をたてる。自身を翻弄する成歩堂の指と、徐々に中心へと近づいて行く内股をなぞる手の動きに、ただ、響也の瞳が見開かれた。 指先が足の付け根に触れると、戦慄く身体がいっそう大きく震えた。 しかし、それ以上指は先に進む事はなく、響也のはちきれそうな熱を握りつぶさんばかりの荒荒しさでひねり上げる。抑えの効かなくなった先端から放たれるものは、成歩堂の掌を汚した。 カクンとイッキに力が抜けた響也の様子を待っていたように、成歩堂の指は堅く閉じたその部分に指を潜り込ませる。ぬるりとなまぬるい感触が、奥まった場所へともぐりこんでいく。 「ひっ…あ!?」 「ああ、やっぱり始めてなんだ。」 楽しそうな声が耳元で響いたかと思うと、続いて息が詰まる圧迫感が追加される。 苦痛を訴え、バサバサと髪を振れば指が肉につきたてられる。震えながら身をこわばらせれば、思うさま秘めた個所をかきまわされた。 「馴らしておかないと痛いから。前も弄ってあげるからもうちょっと我慢して。」 低く熱く囁かれ、接吻と舌の愛撫とを加えながら、成歩堂は指でくちゅくちゅ、と音をたてた。 「も…や…だ……っぁあ……!!」 荒い息と、しゃくりあげるだけの嗚咽。翻弄されるとは、こういう事なのだと飛びそうになる意識が告げる。好きだと気付いた心は、もう止められない。今、響也に快楽を与えている相手が、その相手であるのなら尚更だ。 ふいに圧迫感が、抜ける。 両手を床に付かされる。床と成歩堂に挟まれ息を飲んだ響也の腰をつかみ、尻肉を割広げられると遠慮も躊躇もなく、一気にずぶりと根元までを埋め込まれた。 悲鳴は声を伴わず、喉をかすって空気となって出て行った。挿入の勢いに傷ついたらしい、引き裂けるような痛みから逃れたくて必死にもがいた。しかし、しっかりと響也を捕まえている腕は、放してくれない。 手が、腰を無造作に揺さぶる。内壁を引きずり出され、そして入り口をねじこみながら最奥をえぐられる衝撃に、響也は四肢を痙攣させながら悲鳴をあげた。 我慢出来ない苦痛に必死で目の前のものに追いすがる。両手で壁を掻きむしっていたのだと気付いたのは、成歩堂に両腕を掴まれた時だ。 「壁、爪の後がついちゃうよ。」 何度か制止されても、それを止める事が出来なかった。其れほどに痛くて辛かったのだ。そうして、成歩堂が舌打ちをしたと思った次には、両手首を何かで拘束されていた。 「やっ…なんで…。」 「駄目だ。綺麗な爪にだって傷が残る。」 ボロボロと涙が零れ頬に落ちていた。痛くて苦しくて、何にもすがれなくて、ただ辛くて。泣く事しか出来ない状態の響也を成歩堂は両の手で響也を背中から抱きしめる。 「ごめん、泣かないで。」 首筋に、啄むように優しい口付けを何度も落とす。 「君の中、熱くて本当に良いよ。だから、君も気持ちよくなってよ。」 柔らかな優しい手が、労るように身体を撫でる。本当に大切なんだと告げるように、こんなに酔っているらしいのに乱暴さの欠片もない。 ズクリと心が痛んだ。 成歩堂が今こうして求めているのは自分では無いのだと、そう思い出す度に心が締め付けられる。全てを振り払って逃げてしまいたいのに、この男の両腕に囚われてもいいと思える自分が滑稽だった。 好きなんだと言う確信だけが、絶望的な心に刻み込まれる。 兄を求めているこの男に、自分は確かに惹かれているのだ。こんなの最低で、最悪だ。 「ほら、また泣く。」 クスリと耳元で成歩堂が笑う。トロリと惚けた声にゾクリと疼く。 「ああ、でも気持ちいいなぁ、君の中に全部溶かし込んでしまいたい。」 股間で、萎えていたはずのものがどくりと脈打った。正直な身体が情けなくて只涙が溢れた。 content/ next |